は泣かされた、――それよりも、彼女の店での人気がうすれてゐるのには、おしげも驚いたのだ、妹のおとしが代つてみんなにちやほやされてゐた、兄嫁のおつねも色つぽくて受けがよかつた、おしげだつて気性を買はれて何とか彼《か》とか云ひ寄る客も少くはない、かつては客と云ふ客が、おきよのために高い酒を飲んだのであらうが、近頃は、他の女たちの方がわいわいと云はれて、おきよはますます硬い表情でとり残されると云った工合であつた、不健康な生活のために二十五だと云ふのに、肌理《きめ》が荒《すさ》んで、どことなく頽《くづ》れて来た容貌がすでに男を惹《ひ》かなくなつただけではなく、歪《いび》つな性格がさうなるとますます露骨になつて不愉快であるらしかつた、それでも店へ出ることはもとよりやめなかつた、いつまでも「たむら」の看板娘であると信じてゐたかつた、わざとまたそのやうな振舞をするので無理が眼立ち、反感と滑稽さを同時におぼえるのであつた。それでも何かの工合で、ひよつと彼女の表情にも寂しい翳《かげ》のさすことがある、酔つ払ひの声に女の嬌笑《けうせう》がいりみだれてゐ、おしげ自身もいい気になつてお銚子の代りを取りに立つと
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