酌に、すがるやうに下手な常談口をきいて、だらしなく悦んで笑つてるのもきつと見られた。
 おきよはその白い額やつんと高い鼻を尚一そう電燈の下で気取らせて、きれの長い眼をやすやすと動かさず、ぢつとどつか中有《ちゆうう》を見てゐるのが癖であつた、それでもその傲慢《がうまん》なのさへもある時期には客に魅力であつたらしかつた、しかし、そんな時期はもうすぎ去つてゐた、おしげが去年ある宿屋に奉公してゐたのが、「たむら」へ移ると聞いてどんなにうれしかつたかも知れない、あすこのきよちやんと一しよに住むと思つただけでぞくぞくして、何とはなく肩幅が広く昔の友だちに手紙で報《し》らせてやりたい位であつた、母親が悪い条件で前借をしたのもあまり苦にならなかつた、お目見得に来た時も、特別丁寧におきよには挨拶して、うつとりと眺めてゐた、ところがここへ来てからは次第に幻滅がして、これがあの心躍らせてゐたおきよちやんかと妙な気のすることもあつた、主人の妹だからと威張るのならまだいい、無精たらしくてけちんぼで、口汚く小言ばかり云つてうるさかつた、ひやつとするほど、惨酷な言葉を召使や出入りの商人にあびせかけた、底意地の悪さに
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