て、何を教へても少しも覚えないと滾《こぼ》してゐたので、私はさういふ名前を与へたのだつた。

[#5字下げ]二[#「二」は中見出し]

 その翌日から私はもうFの家を訪れてもグリツプの傍には寄らなかつた。Fを庭にも部屋にも見出せずに、手持無沙汰の時には、アマさんに秘かに頼んで、Fの親父が飲用するウヰスキイを貰つてチビ/\と飲んだ。――。
「怠け鸚鵡」は何時でも、窓枠の置かれた籠の中から私の方を横目で睨んでゐた。
「貴様とはもう一切口をきかないぞ。」私も睨み返してさう云つてやつた。Fにあんな風に発見されてテレ臭くもあり、業腹でもあつたので、頭から否定してやつたのだが、ほんとは私は、Fの云つた通りこいつ[#「こいつ」に傍点]に一言ことば[#「ことば」に傍点]を教へてやらうと思つてゐたのだつた。
 何と? ――それは、ちよつとこゝでは云ひにくい!
 この頃私は、友達からも認められる程の酒飲みになつた。私は、洋酒は嫌ひで日本酒ばかり飲む。二度、私はFの部屋で独りでウヰスキーを飲み過して、泥酔して、Fに発見されて、一度は髪の毛を※[#「てへん+毟」、第4水準2−78−12]られ、一度はFが鸚鵡の
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