籠を床に叩きつけて、大いに私の将来を諫めたことがあつた。――こんな下らないことを書くと私といふ青年が、いかにも以前は西洋かぶれのした不良少年だつたやうに響くかも知れないが、それは弁明しておきたい。それには私がどうして[#「どうして」に傍点]F一家と友達になつたか? こゝに書いた以外の点ではどんなに私がFの善良な友達であつたか? そして私は日本旧式のどんな家庭に育ちその保守的で消極的である教育にどれ程感化されてゐたか? を一言すればいゝんだが、冗言に陥ることをおそれるから省くが――。
ともかくあの[#「あの」に傍点]鸚鵡は、それから一年あまり、F一家が帰国する迄私の目ざわりだつたが、遂々《とう/\》人間の言葉を唯の一言も覚えなかつた。たゞ今でも一寸私の気になるのは、或日私もFの真似をして鍵穴からそつと覗いて見たら、Fが懸命に鸚鵡に何か教へてゐたことだつた。何と? 教へてゐたか、聞えなかつたが、どうもFの口つきが LAZY BOY! LAZY BOY! と動いてゐたやうに思はれてならない。
[#5字下げ]三[#「三」は中見出し]
Fからは一年に二度位は手紙が来る。去年の春、結婚した
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