、是非とも無二の親友としてつき合つて呉れ。俺は、何だか君が、兄哥《あにき》のやうな気がして来た。」
 さう云つて、しつかりと執つた兵野の手を決して離さうとしなかつた。
「……ぢや、これからもう一切寂しい/\なんていふ譫言《うわごと》を云ふのは止めにして――」
 笛のやうな声で、あんなことばかりを繰り返されると、丘野も妙になりさうになつたので、
「元気好く飲もうぢやないか!」
 と云つた。
「賛成だ――斯んな春らしい好い晩を、めそ/\してはゐられない。出よう――」
 彼は勢ひ好く叫んだ。
 あの、お君つて子は、とても感心な娘で、親爺とたつた二人であの店を経営してゐるんだが、近頃その親爺が病気になつて――。
 外に出ると堀田は、居酒屋の内幕ばなしをはぢめたが、お君のことに移ると、吐息をのんで、
「僕は、他に野心もなにもないのだが、あの家の為には出来るだけのことを仕度いと思つてゐるのさ。貧乏といふよりも僕は、あの父子《おやこ》の世にも稀な純情に打たれてゐるんだ。世が世なら僕は盗棒を働いてゞも……」
 堀田は兵野の肩に凭りかゝつて、夜更けの町を歩きながら、そんな話をした。
「盗棒と云へばね……
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