代り家賃は無しだ……」
「ぢや、何々方――だね。」
四ツ谷から新宿にさしかゝつた頃になつて、兵野は漸く方角に気づいた。
四
兵野は、洋酒の度を過すことに不慣れだつたせいか、車から降りると、殆んど脚腰がまゝにならなかつた。
「よし、ぢや僕がおぶつて行くよ。」
堀田は甲斐甲斐しく、外套《とんび》を脱いで、それを兵野に羽織らせると、着物の裾を端折つた。昼間は、うら/\として好天気続きで、すつかり春めいた陽気であつたから兵野は外套を着てゐなかつた。
そんなに大袈裟に構えられると兵野は、恐縮して気をとり直したが、とてもひとりでは歩けさうもなかつた。――脚が地にすれ/\になるくらい兵野は、だらしもなく堀田の肩にぶらさがつて、空地を横切つたり、露路を曲つたりした。
「何番地さ、え、君、番地は? 次第に依つては、近道を行かう。」
「君は、この辺の地理に明るいの?」
「相当――。だつて阿母は五年も此方にゐるんだもの。」
「三十七番地だ――知つてゐるか?」
「……さうか。大概、見当はつくよ。だから、君は安心して好いよ。」
兵野は、堀田の肩で半ばうと/\しながら運ばれて行つた。
間
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