は、もう一度、今の言葉と同じことが口に出かゝつたが、あまりそんなことばかりを続けて云ふのは、返つて空々しく堀田の気嫌をとるが如くに思はれさうな気がして、遠慮してしまつた。
三
細い露路を幾つも幾つも曲つたり、危なかしい溝板《どぶいた》を堀田に手をとられながら踏み越えたりして、凡そ、ものゝ二三町も、ぐる/\と同じような軒合ひばかりを歩いた後に、漸く広い電車通りに出た時には、兵野は酒の酔が次第に高まつて来て何とも危い脚どりであつた。
「しつかり僕につかまつて下さいよ。」
堀田は兵野の腕をおさへてゐたが、殆ど兵野は半身を彼にもたれかけてゐた。堀田は、あんなに飲んだにも関はらず殊の他しつかりとしてゐて、車を物色した。
無論、もう電車などは通つてゐなかつた。二筋のレールが、冴え冴えと水のやうに静かな路上に光つてゐた。
兵野は、一体、これは何処かしら? と思つて、眼を凝らして停留場のあたりや、あちこちの看板などを読まうとしたが、遠すぎて何うしてもわからなかつた。
「おい、今日のクラス会は大いに面白かつたなあ――貴様に酔はれたんで、俺はすつかり白々しくなつてしまつたぞ。」
火
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