親孝行者らしいと僕は思つてゐたところだ。」
「いづれ、阿母に紹介するから、会つて呉れるか。」
「会ふとも、悦んで――」
「俺の阿母は俺に似てやつぱし大変な心細がりやでね、万一俺に病気にでもなられたら何うしようか! なんて、そんな取り越し苦労ばかりしてゐるんだよ、厭になつてしまふ。」
「君は働いてゐるの?」
「勿論、僕の手一つで阿母を養つてゐるんだよ。そのうちにまあ、いろいろと聞いて貰ふが、斯んなところに僕が別居してゐるのは、僕が、帰りが遅かつたり何かすると阿母がとても心配して気の毒でならないので――斯んな風に離れてゐるのさ。何うかすると一ト月も二タ月も阿母に会はないことも、この頃ぢや往々だが、今ぢや、その点は漸く安心するようになつた。何しろ僕が、酒の気を含んで戻ると阿母は心配するし、さうかと云つて、この通りに僕は酒好きになつてしまつて、酒の気がなければ決して眠れないし……で、斯んな処に離れて、この頃は主に用事は手紙で済してゐるんだ。この分なら、阿母の方に変つたことさへない限り、半年や一年、このまゝに過したつて、心配もしまい。」
「ぢや、君、今夜は止めた方が好いだらう、俺達は大分酔つてゐ
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