つきり云へば、僕は、さつき、あのおでん屋で、はぢめて君と言葉を交した瞬間に、霊感的に、この人こそは、俺のほんとうの友達になれるといふ一種の直感に打たれたんだ――」
堀田の云ふところは、なるほど、聞きように依つては堪らなく低級な歯の浮くやうな言葉ばかりで、これでは熱情的になればなるほど孤独に陥るのは当然のことだ――と兵野も思つたが、左う思へば思ふほど、珍奇な可憐味を覚へるばかりでなく、その、一本気の、素直な態度に次第に感情的に惑わかされて行くものを感じた。
「さうだ――」
と兵野も、グツと洋盃《こつぷ》を傾けながら重々しく唸つた。
「僕は、断じて君を裏切らない、大丈夫だ。」
「何んな類ひの相談を持ちかけても、決して驚ろかない?」
「驚くものか――君が若し、盗棒であつても、僕は君を悪人とは思はんよ。」
兵野が、大袈裟な形容を得意さうに、からからとわらふと、堀田も、
「やあ、そいつあ、好かつたな!」
と、はぢめて朗らかにわらつた。
「ぢや、出かけよう。俺は、斯う見へても仲々の親孝行者でね、と云つても天にも地にも阿母と俺とは、他に身寄りのない、たつた二人なんだが……」
「君は、いかにも
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