足に変つて具合好く胴体の釣り合ひを保つてゐる。短か過ぎはしないかと思はれた馬の尻尾の鬚も、まことに百足のそれらしい。眼玉がクルクルと回つて滑稽な凄味を添てゐるし、数片の鱗はキラキラと陽に映えながら節足類のそれらしい細やかなうねりを見せてゐた。然し、百足らしく見ゆるまでには其処に余程の時がはさまれての後だつた。即ち、銀色の楯の一隊が先づ一町も先きまで進むと彼等は各自の楯を静かに芝生の上に立てかけた。そして、また一町を戻り彼等は一条の綱に三間置き位ひの割合ひで取りすがるのであつた。風見係りの者が、いざと号令を懸けると、彼等は慌しい井戸換への連中のやうに綱を引いて一勢に駆け出すのである。同時に、パラパラと向方の楯が舞ひあがる。それはつなぎ提灯のやうになつたり、弥次郎兵衛のやうに両脚をよち/\と打ち振つたり、それぞれあちらこちらに飛び散るやうに見えたり、してゐるかと見ると、やがて中空に浮んで大うねりを漂はせながら一列に並んでしまふ。駆け続けてゐるあげ手の方では、凧に最も近い者から順々に手を離して行くのである。この呼吸を見るのが余程の熟練を要するらしい。うつかり早過ぎて離すと凧があがり損ふ。また
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