一切役に立たない。」
母は自身が批難でもされたかのやうに思つて、顔をあかくした。「思ふと、私も上つてゐる小さい凧の姿しか思ひ出せない。」
「だん/\小さくなる。」と私は呟いた。……毛氈の上の私達が、重箱を開いて弁当をつかつてゐると、突然盆地の一隅からワーツといふおだやかならぬ波のやうな鬨の声が捲き起つた。見ると、あげ[#「あげ」に傍点]手の一団がまさしく蜘蛛の子を散らしたやうにパツと飛び散つた。
「喧嘩かな?」
「毎年一度は屹度だ!」
「早く仲裁が入れば[#「入れば」は底本では「入れは」]好いが?」
私と祖母と母は、同時に斯う云つて箸を置いた。口々に彼等は何事かを叫んでゐるのだが、遠いので意味は解らなかつた。それにしても喧嘩にしては何だか妙だな? と私は思つた。と、見ると彼等は一勢にスタートを切つて此方に駈け出した。
空には、何の変りもないボーフラがうつら/\と居眠りをしてゐる。
「お母さん、どうしたのでせう?」と母は祖母を振り返つて訊ねた。
「喧嘩かも知れない、立ちのこうかな?」
間もなく一団の駈け手は、砂を巻いて、滑走する巨大な磁石になつて次々にあたりの群勢を吸ひ込み、最初
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