憎態な舌だらう、ぺら/\と風に翻つてゐやがる。――おい/\、然し俺だつて拵へる段には、小さいながらもせめて青野の凧に似るほどの安全なものにする、無論舌だつて取りつけるんだ、だからもう少し低くなつて顔つきの構造を見せてくれ、眼玉と鬚と口の格構と舌の動き具合と、……」
「不器用なくせに!」
「いゝや、これ程俺は一生懸命なんだ、ほんの一寸とで好いから眼近く現れて呉れ、命を縮めても見とゞけずには居ない。」
「馬鹿の一念か! 俺はかくれもしない。この通り悠々とお前の眼の上で泳いでゐるぢやないか。」
「だ、だ、だからよう。」
「出来上つたらお目にかゝらう。話はいづれその時にしようよ。」
「ツンボ! 空とぼけるないツ!」
「フン、泣き出しさうな顔をしてやあがる、此方からは好く見えらあ!」
「意地悪るの鬼!」
「お前は体の具合でも悪いんぢやないの、何だかこの四五日急に元気がなくなつたやうだ。凧の話は如何したの、もうあきらめたと見えるね、お前は子供の時から物に飽き性だつた。」
「この頃お酒だつてそんなに飲まないのに! 好いあんばいにゲー/\が治つたと思つたら、――お酒がもうそれ程身にしみたのかしら、好く
前へ 次へ
全44ページ中16ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
牧野 信一 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング