製で小さな百足凧を製作して子供を悦ばせてやらうと気づいたのである。然し実際の構造に就いては母も私以上の知識は持つてゐなかつた。
「それは好いだらう。」
「僕、如何しても拵《こさ》えたい、直ぐにでも。」と私は、一言毎に熱度を増した。子供のため、そんなことも何時の間にか忘れてしまつた。その晩私は珍らしいことだ、朗らかな夢を見たのは――。
朝になつて勢ひ好く飛び起ると私は、一目散に別の知人を自転車で訪れた。Aは云つた。「そんな凧なんて俺は見たこともない。」Bも云つた。「へえ! 珍らしいね、そんなのなら俺も一つ欲しいから君先きに作つて呉れ。」Cは云つた。「あげる場所があるまい。今では。」
「いや俺のは小さいんだ、胴の太さは直径五寸位ひのもので好いんだ。」と私は、落胆《がつかり》しながら性急に答へた。私は、あれと同じ説明を何処ででも返つて求められたのだ。
「これはどうしても自分だけの怪し気な記憶をたどるより他は道がなさゝうだ。だが僕は一層拵らえずには居られなくなつた。あゝ。」
「私も少しは手伝つても好い。」と母は、私の沈み方や熱情が案外真剣なのに驚いた。
私は物差、分廻し、定規、コンパス、そ
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