ぢや世間に聞える憂ひもなし――ひとつ、海棠屋敷の花見の宴の真似事を仕様ぢやないか――」
池部も一処になつて、
「そいつは案外面白いかも知れない。そして、皆なそろつて写真を撮らうぢやないか。」などゝ浮れ出した。
「ぢや、妾も賛成するわ。」
と雪江も同意した。「ついでに妾の踊りを、おのおの方に見せてあげるわね。お囃子は蓄音機で間に合ふでせう。」
皆な、鬨の声を挙げて仕度にとりかゝつた処へ滝尾が酒樽を担いで戻つて来た。
「大変なことになつてしまつたよ、滝尾――ほんとうに仮装舞踏会を始めるんだつてさ。」
皆ながバラ/\と蔵の中へ駆け込んで行くと池部が、面白さうに滝尾に呼びかけた。
「君は何に扮る?」
「二人は、まあ、たゞの見物人にして貰はうぢやないか。」
と池部がテレた笑ひを浮べると、滝尾は反対して、ともかく裃は着て、長袴を、そろつと穿いて見ようぢやないか! と主張した。
池部は、苦笑しながら酒樽を勝手もとの方へ運び走つた。
四
泉水に面した広間に二列に膳を並べて、芝居の様な夜会をはじめた。いつの間にか人数が増へておよそ十四五人もの大名が、ずらりと両側に陣取つて、皆
前へ
次へ
全24ページ中16ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
牧野 信一 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング