かり験べてゐるので、つい寝呆けてゐたり、一処に食卓に並ぶ間もなくなつたりしてゐるのだが――など、赤くなつて弁解した。
「まあ、随分熱心な方ね、皆なが遊んでゐる夏だといふのに――一体、何を、そんなに験べてゐらつしやるの?」
皮肉になつていけないと雪江は気にしてゐたが、あんな馬鹿気た滝尾の秘事を公言しない限り、何か言ふと何うも空々しくなつてまともに相手の顔を眺めるのが苦しかつた。
「何を――ツて!」
滝尾が明らかに内心狼狽したらしいのを感ずると雪江は、何うしても皮肉にならずには居られなかつた。滝尾は明らかに眼を白黒させた。
「そんなことを一概に云へるもんですか!」
「あの中にある北条記の稗史めいたものゝうちに何某といふ領主が天主閣の楼上で烏天狗と問答をする――領主自身の不思議な手記がある筈だが、君にはあゝ云ふローマンスは面白いだらう。」
何も知らない池部がそんな話を持ちかけると滝尾は、雪江の眼に映る有様では、益々狼狽して、(あんなことを口実にして蔵の中に出入してゐるものゝ、あんなに人形ばかりに現を抜かしてゐる滝尾に、そんな古典を渉漁する余猶などが有る筈はないのだ。)
「うむ――面白い
前へ
次へ
全24ページ中14ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
牧野 信一 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング