録なるものをつくるとすれば、第一日は、小学生のそれのやうに、何時に起床し、湯に行き、帰りて、晩飯を済して寝たり――と、それで全部で続く日は、雲天とか、晴天とか、雨天とかの変りを誌せば誌し、他は凡て、前日に同じ、前日に同じ、とするより他はないのだ。これが若し天候の加減で、いろ/\気分が変り、晴れた日には快活になり、雨の日には落つき、風の日には如何かといふ心でもあれば、自づと感想にも色彩が出るであらうが、彼はそんなことには何の影響も享けないのである。
彼は、幼年時代から「日記」には反感を持つてゐた。小学校にあがると同時に彼の母は、彼に日記を誌すことを命じた。毎日、天候といふ欄に、曇リ後晴レとか、終日快晴とか、午後ニ至リテ風吹キとか、天候の具合からしてたゞ、晴れとか雨とかでは母が許さなかつたので、これを誌すだけでも相当の退屈を味つた。
「六時ニ起キ、顔ヲ洗ヒ飯ヲタベ、七時半ニ学校へ行キ、帰リテ夕方マデ友トアソビ、夜勉強シテ、ネタリ。」
日記は他人《ひと》に見せる為に書くのではない、大きくなつて自分で読んで見るといろ/\得るところがあるのだ、だから正直に出来るだけ詳しく書いておかなければな
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