何んな文句だつたかな? すつかり忘れてしまつたな! だが俺は、たしかその遊びでは何時でも失敗者だつたな! さつぱり舌が回らなかつたよ……それにしても一つ位ゐあの唱へ文句を覚えてゐさうなものだが、チヨッ! 癪だな! 今一寸試して見たいんだがな? あゝいふ業は、子供と大人と何方が優れてゐるものかしら! それもやつぱり天成の一つかな? 子供の時分出来なかつた遊びは……勿論ぢやないか、いつそ反つて無器用になつてゐる位ゐのものなんだらう。)
「チヨッ」と、彼は舌を鳴した。それ位ゐのことで彼は、厭な気がしたのだ。
 同じ日ばかり続くのである、即ち昼、十二時過ぎに眼を醒し、ぽかんとして、またうとうとゝ眠り、しばらくたつて寝床から逼ひ出し、入浴に出かけ、帰つて来ると灯りが点いてゐて、夕餉の膳に向ふのだ――忽ち酒に酔つてしまふ、如何して寝床に入つたか覚えはないのだ、たゞ翌日、即ち昼、十二時過ぎにぴかりと眼を開くと、たしかに其処に、英文和訳の直訳体の説明句の通りに、彼は其処に自分の存在を発見するのだ。――云ふまでもなく彼は、酔つてどんなことを考へ、どんなことを喋舌り、どんな動作を演じたか、悉く忘れてゐる
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