ない。Kは、今日真鶴まで泳いで船で帰つて来た。少しでも凝ツとしてゐると親爺の怖しい顔が浮んでやりきれないから、起きてゐる間は滅茶苦茶に運動するんだ、とKは云ふ。夜になるとKは倒れるまで酒を呑む、一寸心配。)
(ロシヤとかでは、雪中自殺法といふのがあるさうだ。泥酔した揚句、雪の中を漫然と歩き回つてゐると非常に快い眠気が襲つて、眠るとその儘安らかに永久に醒めないのださうだ、多くの自殺法のうちこれが最も楽な方法なさうだ。海の上でもそんな芸当は出来ないかな? などと笑つてKが云つた。ロシヤの話なんて嘘に違ひない。厭なことを云ふKだ。)
(Kが、気分が悪いと云つて起きなかつた。額に手をあてゝ見ると酷く熱い。驚いて計つて見ると三十九度強。慌てゝ外へ飛び出す、A院へ行つたが留守、他に知合ひなし、出たらめに三軒の医院へ頼んだ、俥が街を走つてゐる時、何のわけもなく、ふつと立ちあがり、その儘暫らく走り、往来の人に笑はれて始めて気附いた。二人の医者が来て呉れた。日射病、大腸カタル、三ツの氷嚢で頭と胸を冷す。四十一度まで昇つた。自分は病気の智識が何もなく、あまり病気になつたことがないので多くの不便を感じた。徹
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