う、などゝ思つて情けなくなつたり、無味な虚文は立所に行き詰つたりしながら、しどろもどろに、苦し紛れに背すじに汗を流して書いたのである。――如何にも家庭では、保護者の言に忠実で、専念修養を怠らぬ素振りを多く香はせたのであるが、それでも同じく捏造であるにせよ、そんな空想は思ひも及ばないのであるが、丹沢山で山猿に出遇ふの記等々のやうな柄でもない望みよりは、これは悉く自分の生活の極端な反意語を叙せば足るのであつたから、空々しい想像よりは楽であり、自分に近い方便だつた。
で一日一日の違ひと云へば、で仕方がなく、七時起床と誌した翌日は(校則では五時起床でなければならなかつた、だが、さう五時五時とせずに、稀には七時も好いだらう。)――五時三十分としたり、またその次には正五時起床が三四日も続き、そしてまた――昨日は遠泳を行ひたる為に、今朝は思はず寝過して、ハツと気付いて枕頭の眼醒時計を見れば早や七時十分過ぎ、前庭に旭光みなぎる、我は勢ひ好く飛び起き、井戸側に走り常の如く冷水浴五度、後午近くまで数学を解きたり、されど七時過ぎの冷水浴は、水温生ぬるく心神に左まで効果なきことを悟りたれば、明朝よりは、断乎
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