まつた。そして無理に笑ひ声をたてゝ見た。すると、正しく鳴き声ばかりが、彼のそれと似て鴉の如くクワツ/\と筒抜けながら、顔の筋肉は少しもゆるがなかつた。
「いゝえ、わたしは、あなたのやうに――さつぱりと振られて、見得も得意も、やけつぱちもないといふやうなお面を、いや、様子を何時にも見たことはないんです。」
「ちえツ馬鹿めんのモデルにされちや堪らないぞ?」
 と私は云ひ棄てゝ立ちあがつてしまつた。
「何もそんなに肚を立てないだつて好いぢやありませんか――」
 彼は私の姿を弱々しく見あげながら、悲しさうにつぶやくのであつた。いつか別の客に向つて、あれほどの圧倒的な威喝を浴せた男であるからには、いつかは短気を起して私の上にも目ざましい罵りを加へるだらう――私はそういふ光景を自分の上に想像して、吾ながらの生気を呼び反したいといふやうな憐れな状態だつた。
「然し、何ういふわけで――」
 と私は最も横柄な口調で唸らずには居られなかつた。「特に僕の姿にばかり、君は飛んでもない興味を持たうとするんだい。実に迷惑だな――」
「何ういふわけか――」
 と彼は益々弱々しく首垂れるばかりだつた。「見ると全く変哲
前へ 次へ
全24ページ中11ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
牧野 信一 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング