見ませんか。」
「この※[#「髟/(冂<はみ出た横棒二本)」、第4水準2−93−20]面では仕方があるまい――といふ、あれだな、あれなら俺も思ひ出した。よし、では一番見得を切つて、唸り返してやらうよ、面白いぞ。」
 と私は、まるで酔つ払いのやうに仰山に胸を拡げて、気取つた音声を発した。「だが、この※[#「髟/(冂<はみ出た横棒二本)」、第4水準2−93−20]では仕方があるまい。僕は軽妙な社交術に長じて居らぬから今回の計画はおそらく上首尾には行くまいと思ふのだ。人の前に出る段になると、無性に肩身が狭くなつて何うすることも出来なくなつてしまふのが僕の性質だからね。」
「そんな心配は無用ですよ。」
 とメフイストの科白が続けられた。「処世の道なんてものは案じるより生むが易いと云はるる通りですからね。あなたが、ただ強い自信だけを以つて平然としてゐれば宜しいですよ。」
「そいつは心得た。で、出立の方法は?」
「はい、この上衣を拡げさへすれば、それで宜しいのです。」
 と助手は「馬車」の扉を更に大きく拡げ直して科白を続けた。――「この上衣は私達を空中高く運んで呉れます。この大胆な旅行に重い荷物は
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