ゐた。私は、この角楯組の兵士の言葉に同感を覚えたので、
「おい、君、待つて呉れ――君の宛名を知らせて呉れ、君は俺の、容易に出遇ふことの出来ない友達だ。」
と叫んで、行列を横断しようとすると、急に車馬も群集も速やかに進み出したところであつた。私は腕をさし伸して彼を追はうとすると、
「馬鹿ツ、退れ――罰金だぞ。」
と突然、交通整理官に手酷い一喝を浴せられた。
「おーい。」
私は、ひるまず、ステッキの先に帽子を載せて高くさしあげた。
すると、二台も三台もの馬車が私を取り囲んで扉をあけた。
「お望み通りに小世界を見てから、おいおいと大世界の方へ参りませう。屹度あなたは非常な悦びと非常な利益を得て、その道すがら踊り出すに違ひありません。」
と御者の助手が言葉巧みに誘つた。
「やあ、何だか聞き覚えのあるやうな怖ろしい言葉だと思つたら――」
と私は二三歩後ろにたぢろぎながら、相手の顔をまじまじと打ち眺めて呟いた。「光りと愛を打ち消す者――メフイストフエレスの科白ぢやないか……だが、そんな洒落た科白で誘はれては此方も乗り込まずには居られないが――」
「そこで貴方も一つ科白の受け渡しを試みて
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