のリズムに合ふのが私は愉快であつた。
「あの唄は流行してゐるの?」
「雨の中で歌ふ――とかといふ、つい此頃出来たレヴュウの小唄でせう。」
娘が斯んなことを話し合ひ、ラヂオに合せて私の知らない文句の歌を口吟みながら過ぎて行つた。
今の私の――とは似ても似つかぬ歌であるらしい。おやおや! と私は思つた。で私は、もう一遍私の歌をうたつて見た。
愉快だ! まさしく、街の音楽は私の歌の伴奏である。
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太鼓の響きが聞えるだらう
唱歌の声が聞えるだらう
新来の音楽隊か
否、否、君よ、驚く勿れ
裏山の沼のほとりの
蘆の中に群れつどうてゐる
五位鷺達の騒ぎだよ
………………
[#ここで字下げ終わり]
突然群集がワーッ! といふ歓声を挙げた。それに伴れて私も思はずその方角の天を仰いで見ると、素晴しい花火が散つてゐるところであつた。――いつの間にか私の眼の前は物凄い群集であつた。花火のあがる空の下を目指してゐるのだ。無数の自動車が行手を塞がれて街一杯にあふれてゐた。そして、合間を置いては堰が切れてドッとばかりに流れ出すのであつた。
「宝あり、青き焔の炎ゆるところに――」
群集
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