を調子づけて得意を覚えたところだつたので、また私はあの軍歌の節で歌つた。
[#ここから2字下げ]
………………
転がせ転がせこの樽を
夜告鳥にさそはれて
樽は酒樽 鯨飲み
飲んで歌つて目をあけば
手品使ひの檻の中
………………
[#ここで字下げ終わり]
「おい運転手俺は綺麗な女の顔が見たくなつた。そこで婦人に対する礼儀を重んじて、この※[#「髟/(冂<はみ出た横棒二本)」、第4水準2−93−20]面を何処ぞの美容院で、さつぱりと剃り落して来たいものだな。」
「春の微風《そよかぜ》が頬を撫でるほどの感触も覚えさせずに、たつた五分間でさつぱりお顔をこしらへる手ツ取り早い理髪師を存じて居ます、私は――そこで、ロンバルデイの椿油で御髪《おぐし》を綺麗に分け込んで、オシリスの香りを含んだ香水を吹きかけられて、エヘンと一つ咳払ひをしながら、その店を出て来れば、屋根裏住ひの鼻曲りの哲学者も忽ち変じてドン・フアンの仲間入りが叶ふといふ名看板の理髪師を存じて居ります。」
「そいつは何うも少々話が甘過ぎるね。まさかバーデンブルグの美容師ぢやあるまいね。」
………………
註――一五〇〇年代の話であるから
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