笑ひ顔で彼と女とを等分に眺めた。
「貴様は幾つだ?」
「二十七だ。」
「未だ二十七か。」
「阿父さんは空つとぼけるから厭になつちまふ。」
「だが、二十七は……一寸早えな!」
「僕も内心大いに参つてゐる。」彼はさう云つて、安ツぽく首を縮めてにやにやと如何にも愚かし気な苦笑を浮べた。
「尤も貴様が生れた時は俺は、何でも二十……」
「えゝ、と?」
 彼は眼をつむつて額を天井に向けた。五十一から二十七を引くと幾つ残るか? を考へたのだが、容易にその答へが見出せなかつた。
「二十――二三だらうよ。」
「随分早えな! ハッハッハ。」
 彼は、今更の如く軽い心易さを覚えて、音声だけ景気好く笑つた。――尤も斯ういふ調子にならなければ、この家の変に乱れた空気と調和しないので彼は殊更に甘い粗暴を振舞つてゐるのだつた。親爺はともかく倅の態度が、それにしても過ぎたることを思ふと、これは決して他人には見せられない光景だ――と彼は思ふのだつた。初めのうちは彼達の対談をはた[#「はた」に傍点]の女達も不思議さうに眺めたが、今では逆に慣々しくなつてゐた。おそらく彼の母は、他所で彼等が斯んな振舞ひをしてゐるとは想ひも及
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