ゐたところなので、周子から見ると案外朗らかな返事を発した。「男の子なんだから、お雛様なんてをかしいぢやないか。」
「あたしよ/\。」
「ふざけるない。子供がることはみつともねえぞ。」
「あなたに買つて貰ひはしないから余計なお世話よ。」
斯んな無神経な手合にかゝつては此方がやり切れない――彼は自分の鈍感も忘れて、愚かな力を忍ばせた。斯ういふきつかけで喧嘩をすることは、もう彼はあきてゐた。その代り肚で一層軽蔑するぞ――と決めた。これがまた彼の狡さで、ほんとは彼女の言葉を最初にきいた時は、雛節句の宵の女々しい華やかさに一寸憧れたのだつた。
「ぢや御馳走を拵へるのか?」
「お客様も二人ある筈よ。だけど肝心のお雛様がとても貧弱であたしがつかりしてるの。」
「お雛様なんて紙ので沢山だ。――それぢや阿父さんと僕もお客に招《よ》ばれようか。」
「お父さんは真平――。白状すると、怒つちや厭ですよ……、あなたもその晩は居ない方が好いんだが……」
「ハッハッハ……そんなことぢや俺は怒りはしないよ。その代り俺、あさつては昼間から阿父さんのところへ行くぞ。」
英雄《ヒデヲ》はいつの間にか彼女の膝に眠つてゐた
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