い。」
「比較して僕は云つたんぢやない、批評したのさ。」
「あゝもう俺は解らん/\。――だからだね、いや、だから[#「だから」に傍点]も何もないが、さういふわけでさ、俺は家《うち》のつながり[#「つながり」に傍点]は皆な虫が好かない。俺が死んだつて泣く奴なんてあるまいよ。たゞ、だね、貴様も馬鹿でさ、俺よりまた馬鹿だから、俺が死んで困るのは貴様だけだぞ。」
「いくら酔つたつてそんな下手なことを云はれちや閉口だ。気が遠くなる。」
「それが馬鹿だ、といふんだ。」
「あゝ、気分が少し暗くなつた。」
「気分とは何だい。貴様の頭は提灯か?」
「うん、提灯だ。」
「提灯とは驚いた。不景気な奴だな! サーチライトにしろ。」
「さうはいかない、生れつきだもの。」
 さう決め込んでしまふのも因循すぎるか? 彼は斯んな冗談にふとこだはつて見ると、生れつきなんていふ言葉を用ひたことが、そして若しほんとにそんな気を持つたら大変だ――と思つた。
「ところで、もう一遍子供の名前だがね。」と彼の父は、傍のつまらなささうな女に酌をされながら酔つた体をゆり起した。
「俺の名前の雄をとつて英雄《ヒデヲ》としようか? 男だつ
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