英清は何でも下ツ瑞の剣術使ひだとよ。」
「それぢや英の字もあんまり当にならない――となるかね。」彼は、父があまり好い気な冷笑をして独り好がり過ぎる気がしたので、その初めの提言をからかつてやつた。
「まア、いゝさ。そんな夢みたいな話は止さうぜ。」父の酔は、がつくりと一段高まつた。
「そこへ行くと俺は偉いぞう。」
「そこへ行くと――とは怪しい言葉だ。」彼も次第に酔ひが増して、しみつたれの酔つぱらひらしく言葉尻にからまつた。
「いや俺は日本人たア量見が違ふんだ。頭が世界的なんだ。それを……だ。貴様の阿母の兄貴なんて、第一俺を馬鹿にしてゐる。俺はお稲荷様見たいな位ゐは無いよ、だが大礼服の金ピカや勲章が何でえ、△△サーヴァントぢやないか、えゝおい……だからだ……」
「僕はまた、さういふ世界的は滑稽に思ふよ。金ピカだつて奇麗だから、無いよりはいゝと思ふね、月給取を軽蔑したり、何とかサーヴァントだとか何とか、何だつていゝぢやないか……と、そんなことは云ふものゝ僕は何も保守的な若者のつもりぢやありませんぜ。」
「俺ア、肚は社会主義だア。」
「どうも阿父さんの肚は小さいやうだ。」
「いや、貴様よりは大き
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