馬車の歌
牧野信一
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)称《よ》び慣れて
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)一杯|宛《づゝ》の
/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)いよ/\
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佗しい村住ひの僕等が、ある日、隣り町の食糧品店に急用が出来て、半日がかりで様々な切端詰つた用事を済せた後に、漸く村を指して引きあげることになつた夕暮時の途すがらであつた。同行は、いつものやうに僕等と一緒に生活を共にしてゐる大学生のHとTと僕の細君と、そして村にあるたつた一軒の僕等がマメイドと称《よ》び慣れてゐる居酒屋の娘であるメイ子等であつた。
僕等は各自に食糧品で充たされたリユツク・サツクを背にしてゐた。そして、果物の袋をぶらさげてゐる者もあつた。野菜の束を抱へてゐる者もあつた。HとTは太いステツキにギヤソリンの小鑵をとほして二人で両端をになつてゐた。――登山隊にしては、いでたちがあまりにだらしがない、奇妙な道連れであつた。
「市場帰りの馬車が、もう来る時分なんだがな……」
「さう云へば、水車小屋の親父も――あの遊び好
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