きの親父も、いよ/\奥方の鞭が酷《きび》しくなつて四五日前からさかんに水車を廻しはじめてゐたと思つたら、今朝、とても威気揚々たる姿で、馬車に荷物を満載して町へ出掛けて行つたよ――おい、今夜は俺がお大尽になつて威張りたいから俺が帰るのをマメイドで、飯を喰はずに待つてゐて呉れよ! なんて高言しながら――」
「彼の大尽風がマメイドまで保てば、まことにお目出度い話だが――もう間もなく、空馬車に載つかつて、ぼんやり木兎のやうな眼をして帰つて来るだらうよ。酷え目に遇つた/\! などと呟きながら――」
「親父は何うでも好いから、あの空馬車が恋しいよ。あれなら俺達五人がいち時に楽々と乗り込めるからね。」
僕等は勝手なことを云ひながら町端れの松並木の堤で休息してゐた。
「おい/\、見失つてはいけないぞ、大分薄暗くなつて来たからな。」
「大丈夫だとも――此堤の上のお関所に我ん張つてゐれば、犬ころだつて素通りはさせやしないから……」
すると、向ふ側の、片側通りになつてゐる街の雑貨屋で何か用足しをしてゐた細君の傍にゐるメイ子が、
「ちよつと来て下さいな。」
と頓興な声を挙げて僕達をさしまねいた。その音声
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