自分を子供の折から厭なやつだと秘かに思つて憂鬱になる癖があつたが、例へばそんな冬の朝など肌ざわりの違ふ冷たく光つた着物などを着せられると、妙に魂までが悲しいような嬉しいような女の甘つたれのやうな生体のないものになつて、人の悪くちを云ふのが愉快だつた。
「あたしも嫌ひさ。おぢいさんが贔屓などする気が知れやしない。ほんとうに岩吉となんか遊んぢやいけないよ。」
 と母も、子の甘つたれをとがめもせずに同意した。私は、絵本で見る石川五右衛門が釜うでにされながら子供をさしあげてゐる顔つきが、その盗賊の偉さなどゝいふものは全く別にして、単に毒々しく獰猛気な拙劣な絵の顔つきと、笑つても苦味走つてゐる見度いな角頤の具合や、頬骨の感じなどが、おそらく懲役などゝいふ恐るべき言葉からの連想があつたからには相違ないのであるが、岩吉を髣髴させるのであつた。ところが、口では嫌ひだと云つて居りながら、二人ぎりになると子供を相手に云ふべからざる卑猥なことを、低いふつきれ声で、さも/\秘密の相談でも交すやうにさゝやく彼の容子に魅力を覚えるのであつた。
「ちよつと双六を持つて来て御覧なさいよ。あつしがとても面白い賽の振り方
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