竹藪であつたり、沼地であつたりした場所が繁華なステーシヨンの広場になるといふからには、多くの彼の事業に関して、決して失敗などは予期しもしなかつたのであるが、年寄や婦子供のみの古めかしい屋根の下に行灯や雪洞の光りのまはりで寂しく蟋蟀のやうな日夕を送り迎へてゐた者共にとつては、急に夜更けまでも電話のベルが鳴つたり、乗つたこともなかつた自動車が出入したりする華々しさに、何か漠然として信じ難いばつ[#「ばつ」に傍点]の悪さを誘はれるのであつた。
「どうせ碌なことがある気遣ひはないさ。それあ停車場が出来るといふからには、賑やかにはなるだらうけれど、そんな先の事許り当にして前祝ひばかりしてゐたひには、屹度また後では鬱《ふさ》がなければならないやうな始末になるばかりさ。」
 阿母がそんなに云ふと、阿父は震えて口を尖らせた。
 熱を挙げてゐる傍から、冷言を浴せられては堪らぬだらうと寧ろ私は、阿父の心懐に加担した。――が、そんな当面のことには私などは要もなかつたし、家庭の雰囲気も何うやら息苦しくなつたので、大学生になつて多少の憂鬱も知り始めた私は、休暇で帰省しても故家には落つかず、大概熱海の山荘へ赴いて
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