けられないお転婆で――バカだよ。」
斯う高飛車に云つた時私は、突然不思議な(と自分では思ひました)寂しさを覚えました。不思議でも何でもありません。
「あなたが東京に居るからでせう。」
「戯談《じようだん》ぢやない!」と私は思はず叫びました。
「あなたが来年学校を出ると一緒になるんですつてね、チヤンと知つてるわ。お楽しみ……」
「ハツハツハ……」と私は、肯定したやうに哄笑しました。――矢張り俺は照子が好きなのかな……そんな気がして、また甘い情なさを味ひました。と、急に、俺は千代子の体を抱き締はしないかしら――そんな妄想が私の脳裏をかすめました。
「あら! 妾、もう帰らなければいけない、お暇でしたらまた今晩いらつして下さいな。」
今迄云つてゐたことはほんの愛嬌でといふ風に白々しく、私の返事を待つ間もなく千代子はさつさと帰つて行きました。
私は、たゞホツとしたばかりでした。照子と千代子の幻が眼を瞑つた瞬間に一寸夢のやうに渦巻き、直ぐに消えました。
さつきの「歌」のことを考へやう、と私は思ひました。――だが、いくら想つても到底照子のやうに巧には歌へません。照子に、この気持を示したら何ん
前へ
次へ
全16ページ中10ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
牧野 信一 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング