たしかに酔つてゐた。」
「あなた昨夜云つたこと、アレほんとなの?」
 私の鼓動は一つ異様な音を打ちました。
「どんなことを云つたかしら?」
 私は厭味たらしい眼付をして千代子の顔を打ち眺めました。照子に比べて千代子の容貌が数等優つてゐるのを私は、沁々と味はつて、悦びを感じました。私は前の晩出たら目に、心からお前を愛してゐるので、どうしてもお前と結婚がしたい、などゝいふことを酔興らしく云つたのを直ぐに思ひ出して今、女が追求しやうとしてゐる内容がそれ[#「それ」に傍点]であれば面白いぞ――などゝ考へました。
「ねえ、何んなことを云つた?」
「アラ、知らないわ。」
「ハツハツハ……」
「随分あなたは嘘つきね。」
「何故さア?」
 私は、仰山に眼を見張りました。――何んなに冗談にしろ、こんな風なことで女から攻められる経験を嘗て味つたことのない私は、勝手に「恨まれることの愉快」を夢想して、勝手にそれに陶酔して、勝手に快い残虐を強ひました。「ハツハツハ……」
「照子さんはもう学校を出たの?」
「あゝ、去年の春。」
「どうして此方の女学校を途中で止めて、東京の学校へなんて入つたの?」
「彼奴は手のつ
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