なに軽蔑されるだらう……などといふ馬鹿気た恥かしさが可笑しい程強く私の胸を※[#「てへん+劣」、第3水準1−84−77]ります。自分の馬鹿さ加減を覆はうとすることを無気になつて考へてゐるとは、まあ何といふ馬鹿な奴だらう――などゝ私は呟いたりしました。――で私は、歌のことは思ひ切つて立ち上りました。立ち上りながら、一刻前漸く歌らしい言葉の連りが口のうちに纏りかゝつたのを、それを私は――海へ来て石を投げつゝ思ふこと、たゞひたすらに石をおもへり――と口吟《くちずさ》んで、ゾツと歯を浮かせました。私は、たゞ無暗に口笛をピーピーと吹き鳴して自分で自分をごまかしました。こんな歌ではとても照子に吹聴は出来ない、歌は? と、訊かれたら、仕方がない、子供ぢやあるまいしそんなバカな真似はとつくに忘れたよ、とあべこべに鼻であしらつてやれ――などと私は、愚かな画策を回らせて気を鎮めました。
立ち上つて両足を踏み張つて沖を眺めた私は、既にもう何も考へて居りませんでした。たゞ爽々しく洞ろな心だけが残つてゐました。
私は下駄を脱ぎました。そして、それをキチンとそろへ、それから帯を解いて着物を脱ぐときまり[#「き
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