るやうな嬉しさを夢想して、にやにやと笑ひながら不熱心な追求をしました。
「純ちやんなんかも――せめて趣味だけは持つやうにした方が好いわよ。」
「だからさ……」
「妾、文学の趣味のないやうな野蛮人は……」
「解つたよ。」
仮令徒らであつても私が、そんなに従順なので照子は、何時の間にか一層得意になつて、三つ四つ続けて歌留多を読むやうな口調で朗吟しました。私は腕組をして、怖ろしく尤もらしい顔付をしてゐますが、観賞どころか、聴いてもゐません。と云うて別のことを考へてゐたのでもありません。
「好いでせう!」
初めて照子は、甘えるやうな笑ひを浮べて私の眼を見ました。
「もう一度その終ひの奴を云つて見てお呉れ!」と私は、空々しく、熱心気に訊き返したり、「なるほどね。」とか、「ふうむ!」とか「うまいな。」などとさへ、まことしやかに嘆賞しました。
「純ちやんも作つて御覧な、何でもね、自分の思つたり感じたりしたことを偽らずに、素直に……調子さへ解れば好いのよ。」
さう云はれると私は、直ぐに歌のことを考へました。――恋のことが好からう、と思ひました。で私は努めて或る恋情に浸らうとしましたが、どうもはつ
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