した。
 照子は砂の上に腰を降しながら、
「一つ来てゐたわ、お友達でせう。」と云ひました。
 私も腰を降さうとしましたが、照子の必要な返事以外の言葉に一寸機嫌を損じて、返事もせずに石を投げてゐました。
「箪笥の上に双眼鏡があつたので、妾さつきから二階で此方を見てゐたのよ。バカね、眠つてゐたの、こんなとこで……」
 突然照子に斯う云はれて私は、酷《ひど》くうろたへました。
「まさか……」
 私は、投げるには不適当な丸味のある小石を思はず拾つて、力を込めて投げました。石は波打際までもとゞかずに濡れた砂地に落ちました。小さな波が一つ覆《かぶ》さつて引いた時には石は見えませんでした。
「それでもいくらか考へごとなんてあるの。」
「たんとみくびる[#「みくびる」に傍点]が好いさ、どうせ俺の考へてゐることなんて、照ちやんたア違ふんだからね。」
「チエツ、チエツ!、だ。思はせ振り……。妾、今朝歌を三つ程作つてよ。」
「ほう、偉いね、どんなの?」と私は仰山に驚いて見せながら、照子の傍に漸く坐りました。
「云つたつて解りもしないくせに……」
「まア、いゝからさ。」
 私は、恋人と何か甘い囁きでも交してゐ
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