惚れとは恰《まる》で反対に、白々しく快活に照子は笑ひました。
「まア、こゝへお坐りよ。」と私は、彼女を自分の傍に坐らせたがつて、先づ自分がさう云ひながらどつかりと坐りましたが、女が相手にしませんので、と同時に、また立ち上りました。で私は、石を拾ひながら、この気分動作の敗北を取り返す為に急に冷かに、
「何か用なのかい?」と反方《そつぽう》を向いて呟きました。
「だつて、もう十一時すぎよ!」
「十一時が、どうしたんだい。」
 私は、拾つた石を力一杯水の上に投げました、波打際の先きで石は、小魚がはねたやうにキラリと光つて消えました。
「妾だつて、それつ位ゐ……」
 ふと負けん気な照子は、石を拾ひ、私に真似て、でも女らしく腕だけで「ヨツ!」と叫んで投げました。勿論私の投げた半分にもとゞきません。
「バカ!」と私は、冷笑しました。だが私は、見物を意識に容れて、だがそれとなく得意気に、鮮やかなモーシヨンを取つて、二つも三つも続けて投げました。水面を転がるやうにかすつて石は飛んだ。
「もうお止めよ。」と照子は、云ひましたが、私はワザともう一つ石を投げてから、
「どこかから手紙は来なかつた?」と訊ねま
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