きりにはしやいでゐるのが見えました。
「ひとりで凝つとこの儘かうしてゐたい。」
私は、ふとそんなことを思ふと同時に奇妙なテレ臭さを覚えました。――向方《むかふ》を見ると老人は、もう仕事を終へて桟橋を上つて行く処でした。――もう午に近いんだな! などと呟きながら私は、上向きの儘釈然としてゐると、またとろとろとする甘い睡さがムズムズと砂から伝はつて私の五体に滲み込みました。
暫くたつて私がひよいと堤防の方を見ると、その上に一寸つまんで置いたかのやうにポツリと女の姿がひとつ現はれてゐました。その箱庭の人形のやうな女は私の方をキヨトンと眺めてゐます。――まともに陽をうけて、それでなくとも近視眼の為か、顔を顰めてゐるらしい様子が、勿論明瞭には見えませんが、照子に相違ありません。で私は、僕だよ、たしかに僕だよ、早くお出でよ――といふつもりで右手を高く差し伸べました。彼女は直ぐに応じて砂地に降りると、全身が笑つてゐるやうな格好で駆け始めました。
駆けないでも好いのに……などと私は思つて、快く自惚れた僭越な眼で女の姿を眺めてゐました。
「直ぐに解つた?」
「始めツから解つてゐたわよ。」
私の自
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