本が漸く引つ張つて、渡り廊下の処まで来ると、雪洞をかゝげて飛んで来た百合子に突き当つた。
「まあ、あんた達は何を愚図々々してゐたのよ。皆なが待つてゐるのに――」
すると村井は、酷く狼狽して、
「いゝえ、あの……珍らしい剥製があんまり沢山あるので――」
などと吃音で紛《ごま》かした。あまり村井の様子が生真面目なので、滝本も却つててれ[#「てれ」に傍点]臭くなつてしまつて、
「東京へ行く時にはあのミンミーを籠ごと持つて行かうぢやないか、アパートの装飾に丁度好いぜ。」と、幾分後暗い見たいな思ひを秘しながら空呆けると、いきなり百合子は、
「嘘つき!」
と叫んで、晴々しく嗤つた。そして、非常に大きな声で、
「いやあな人達! あんな絵を夢中になつて見てゐるなんて……ハツハツハ!」
左う云つて腹を抱へながら駆け出して行つてしまつた。
滝本は得体の知れぬ不安に襲はれた。と、村井が、太い吐息と一処に「困つたな、守夫……」と、これも、真ツ赤になつて、出そびれてゐた。
「今日は一晩中騒いでやれ。家もそともあるものか。おーい、お勝手の者――ほんとうの酒を持つて来て呉れ。主人がお客様を伴れて帰つて来た
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