ものかね。それに君は今や塚本家の当主なんだぜ。主人公が自分の家の負債に就いてさつぱり無我夢中だなんて、そんな事が他人に話せる類ひのものだらうか、君の考へひとつで何うにだつて整理のつくことだし、加《おま》けに相手が僕の場合なんだから色々と好都合ぢやないか。それよりも君、うか/\してゐると法律上厄介な話にもなるからな!」
法学士なんていふ肩書を誇示する太一郎に斯んなことを云はれると七郎は、何だか得体の知れない怖ろしい影がいつの間にか自分の後から翼を拡げて忍び寄つてゐるかのやうな不安に襲はれた。
「で、八重が君の家へ奉公へ行きさへすれば何も彼も綺麗になるといふわけなんだね。」
「さうさ、たゞの奉公だよ。何も妾に寄せなんて云ふわけではない。君の親父は何か感違ひして、やがて俺の嫁にでもするのか、それでは境遇が違ひ過ぎるからなんて恐縮してゐるんだが、尤もな話だよ、冗談ぢやない、親父こそ自惚れだ、誰が八重となんか――。たゞさうでもしなければ君の家の格構がつくまいと此方は心配して、寧ろ余計な世話を焼いてゐるまでのことさ。」
「……有り難う。だが、その話は今此処で決めなければならないほど、その期間《き
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