、彼奴の知らない間にラツキーを金利の代償に分取つてやつたまでさ。」
「一体その金利とかは幾ら位の……?」
「百円ばかりのことなんだが、君、払へるかね。尤も、今年の競馬でラツキーには相当儲けさせるつもりなんだが――」
 太一郎は、にや/\してゐた。七郎は、そんなことは夢にも知らなかつた。第一、自分の父親が篠谷に負債があるなんてことも初耳である、そんな借金がある位なら父が自分に話さない筈はない――と思つた。不図七郎の頭に、わけもなく自分の家の壁に掲げてある写真が映つた。尋常科を出る時の記念の写真だから二十年も前の姿だが、その中には武一も守夫も、そして太一郎も居る、皆なはあれから中学へ行き自分は高等小学へ進んだ――部屋の中にそんな額より他に何の飾りもないためか、始終それを見あげて、皆の子供の顔かたちを今でもはつきり覚へてゐる――何うしたことか七郎は急にそんな幻が、昨日のことのやうに眼の先にチラついて来た。幻と、見並べて見ると、眼の先の成人の太一郎だつて、はつきりと昔の面影を宿してゐる……。
「ぢや私は、これから武ちやんのところへ行つて、事情を聞いて来ませう。」
 何故俺は、この太一郎にだけ斯
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