ならないオリオン座の星のやうに輝かせて、巧みに誘き寄せた。南方の騎士の館は、オリオン座を横切る銀河のほとりに位してゐる。――思はぬ眼近にオリオンの星を見出したのでパトリツクが雀躍しながら駆け寄つた時に竜はいきなり火焔の洞窟と見紛ふ口腔《くち》を開けて迫つた。が、パトリツクはその時、寧ろ自ら進み寄つて、一気に、最も身軽な三段飛びで、身を翻して化物の肚の中へ飛び込んでしまつた。だから五体には化物の歯型一つ痕《のこ》らなかつた。ボーラスの玄関番《ブラツク》は、思はぬ失策をしてしまつて眼を白黒させながら思案したが、肚の中のパトリツクを殺すためには自分も死ななければならぬといふ手段《てだて》より他に、何んな考へも浮ばなかつた。彼は、このまゝではボーラスの館に帰るわけにも行かず、死ぬ決心は決してつかず、泣きながら彼方此方の山々をうろつき回つてゐた。その間にパトリツクは揺籠よりも快い竜の腹の中で充分の眠りを執り、適度のオーミングも役にたつた。竜は腹の中の重味を持ち扱つて愚図/\してゐる間に、激烈な神経衰弱に襲はれて、青い湖の傍《ほとり》まで差しかゝると列車が停止するやうに静かに悶死した。パトリツクは
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