き乱さうとでもするやうな調子で、
「あゝ、退屈で堪らないなア……」と、突然筒抜けた声で叫んだり、こんなに好い天気だといふのに如何して斯う海は毎日荒れ模様なんだらう? などと往来で出遇つた呑気な人達が他に語るべき用もないのを取り繕ふ為に挨拶の代りに天気の話を取り換す言葉を、独りで焦れツたさうに呟いたり、そして、見てゐる者がゐなければそれ程仰山な真似もしないくせに、
「あゝ、斯う頭が重くては到底やりきれない。」と云ひながら、酷く六ヶ敷い顔つきをして首筋のあたりをポンポンと拳固で叩いたりするのであつた。
「あまり運動しないために到々胃病になつてしまつた。前の晩に食べたものが何となく胸のさきへつかへてゐて気持が悪くつて仕様がない……斯うやつて見ると――」
さういつて私は、水をすくふ時のやうに手の平を凹めて、そこに口を近づけ、徐ろにながく、ハアッと息を吐きかけて、
「あゝ、臭い/\! 何といふ酒臭いことだらう、悪くなつた酒の香ひと同じだ、これアたしかに胃の働きが鈍くなつてゐるんだ、困つたなア!」などと嘆息しながら、尚も熱心に「ハアツ! ハアツ……ウツ、臭い/\、とても。」
さう云つて悲し気に
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