え!」――「出さへすれば埒があくだらう、何アに――ツ、何アに、失敬な奴だ、訴へるたア何だア!」
父は、がむしやらに憤つてゐた。そして無暗に取りのぼせた。亢奮のあまり、いざとなる日までその土地の所有名儀人が私であることを忘れてしまつた。だから私が法廷に出なければならなくなつたのである。さすがにそれに気づいた時には一寸とたじろいだらしかつたが、亢奮と間の悪るさの遣り場がなくなつて、愚かな意地で私を其処に立たせることになつたのである。
「私が――?」
「黙つて突ツ立つてゐれば、それで好い、面倒臭いからさ!」
それだけしか父は、私に告げなかつた。そして二人は、来年はひとつアメリカへ出かけような――だから、一処になら僕も行きたいんだよ――一年位ひの予定で……女房子も伴れて行くと好い……案内役になつてやらア――十何年もたつんだね、もう、阿父さんが帰つてから! ――さうかなア……――祖父になつたヘンリーと子を抱いた Shin が、先づF一家を訪れるかな――ハヽヽヽ、何だか間が悪いな……西部にも一辺伴れてツてやるぞ――ぢや僕は今からピストルを練習しておかうかな――馬鹿ア、そんな山奥へ行くもんかよ―
前へ
次へ
全78ページ中67ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
牧野 信一 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング