……手伝へるものなら――」と云ひながら腹を伸してフーツと息を吐いた。余程臭いに違ひない――といふ気がしてゐるので、母から顔を反向けて吐息したのである。
「では――」と、母は私を呼びかけた。――この時二人の男は腰を真直ぐにして、ハツと口のうちで合図を交した、すると一人は、頭の上に仕掛けてある水車みたいなものゝ中へ逼ひあがつて、彼等も自ら喩えて、その仕事のことを何々とさういふ意味の彼等の術語で称んでゐる如く、「二十日鼠」のやうに脚と手でグルグルとそれを巻き始めた。――それを見あげて母は、私が一寸と気嫌を悪くしてゐるのに気附いて、今度は甘くからかふやうな態度で、
「あれなら……?」と云つた。
 あれなら――と私は、鸚鵡返しに点頭いて凝ツと、まぶしい陽を浴びて悠々と廻つてゐる事を、熱心に見あげた。

[#5字下げ]四[#「四」は中見出し]

 ……「親爺は何処へ行つたんだ、逃げてしまつたんだな、臆病野郎奴! 姉公は何処へ行つたんだ、やつぱり逃げてしまつたのか、カツ! 阿母か、ふゝん、これが俺の阿母か? 何をそんな処でめそ/\してゐやアがるんだい、さツさツと何処へでも出て行きアがれ、どいつも此奴
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