やうな真似をしなかつた。私の幼児の頃の母と同じやうに、たゞ母のやうに積極的ではなかつたが彼女は、私に忠実だつた。私は、いつもその時には彼女に妙な感謝を持つた。だが、私としても、今では、冗談でなくては母の前でそんなことを云へる筈はなかつた。たとへ母が鼻をつまゝないで、私の方を向いたにしろ私はおそらくテレて突然別の話に移してしまつたに相違ないのだ。
今では、何と云つても周子が自分にとつては一番身近くの者であるのか?――私は、そんなことを呟いで、一寸との間怪し気な感傷に耽つたりすることなどあつた。
「他人《ひと》には話も出来ない、随分馬鹿気たことなんだが――」と、私はこの時だけは変に遠慮深く、稀には顔まで赧らめて彼女に云ふのであつた。――「子供の時分のそんな遊びがすつかり身に沁みてしまつてね、どうしても時々これを験さないと、気持が落着かないんだよ。」
「でも、急に可笑しいわね、この頃になつて突然……今までは?」
「子供の自分には……」
「子供の自分ぢやないわよ。」
「いくら女房だと云つても、そんなことを頼むのは悪いやうな気がして――」
「ほう……」
「いや、冗談ぢやないんだ。だから今までは
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