が田舎にゐた時に比べると見違へるほど白くなり、羨ましいわ! と云ひました。
「ほんとう、メイちやん――。何処へ行かう? 何でも御馳走しよう。しばらく見ないうちに、あんたとても大きくなつたわね。……もう泳いだ?」
「二三度――」
「ね、そこに、モダン浴場といふのがあるんだけれど入つて見ないこと?」
「でも、あたし、先に、踵の高い靴が欲しいのよ、奥さん――」
「おゝ、さう/\。ぢや、丸ビルで買つて――それから、モダン浴場を見て――と、洋服も斯んなのを買ふと好いわ、レデイメイドでとても安いのよ、パラソルと、それから、水着はあとで銀座へ行つてつから――と、その前に、そんなのを買つて、お湯に入つて、其処の美容院へ伴れてつてやるわ、あたしは未だ一度も行つた事はないんだけれど――あんたゞけを……」
「嬉しい/\!」
 メイ子は手を叩く格構をしました。妻は何故か大変に調子づいて時々私が、洋服を買ふのは少々無理だよ――とか、俺は今夜は何某と共に酒場へ行く約束があるのだが――などゝ呟いたにも拘はらず、決して聞えぬ風で、浮々と買物の話ばかりをすゝめてゐました。
「早くしなければ飲まれてしまふ位ゐのものなんだ
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