から、出来るだけ手ツ取りばやくしなければつまらないわよ、メイちやん!」
「帽子、――これぢや変でせう、奥さん?」
「変でもないけれど――ベレイを買ひませうよ、おそろひの――」
「あら、あたしの靴下、踵に斯んな穴があいてゐるわ、あんまり慌てゝ飛び出して来たもので――。尤も、慌てないだつて、これ一足しかなかつたには違ひないけれどさ……」
「靴下なんて安いわよ――何うしても、これは、一先づ、彼方へ出かけて行つて、それから、浴場に引き返して、身仕度をとゝのへなければならないわね。」
三
私はあまりのけ者にされ過ぎてゐるのと、酒の酔がないと何事も意々諾々である自分とに幾分業を煮やして、
「フン!」
とつまらなさうに呟きました。
「一体俺は、その間何処で待つてゐるんだい。そつちの仕度が終つて見ると、俺はもう酒場へ行つてハイボール一杯も飲めなくなるといふやうな勘定になるのでは、メイの訪れなんて有りがたくなくなるよ……」
「何か云つてゐらつしやるわよマキノさんが――奥さん。」
「何か考へ事に耽つてゐるんでせう。関はないのよ。独り言は癖だし、放つておかないと、返つて不気嫌になる位ゐのも
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