炬燵に寢てしまつたが、愴てゝ飛び込んだ折の、眞白にうつつた彌生の姿態が厭に何時までも印象に殘つてゐて敵はなかつた。
「開けても好いのか、描いてゐるんぢやないのか?」
「あら、また來たわよ。お氣の毒見たいだわね。」
「おい、ふざけるなよ。俺は向方が寒くなつたから、あたりに來たゞけのことだよ。失敬なことを云ふなよ。」
 隱岐は眞面目に眉を寄せて突返した。
「ぢや勝手に這入つて來たら好いぢやないの、西洋館ぢやあるまいし……」
――そもそもから、それで隱岐は氣嫌を損じて、ふん! とつまらなさうに鼻を鳴らして這入つて行くと、女達も、ふん! と顏をあげずにうつむいたまゝ、一枚のカーテン地のやうなものを二人で兩端をつまんで、せつせつと草花の模樣か何かを刺繍してゐた。彌生はうしろの壁に短刈りの頭を持たせかけて、恰で寢|風呂《バス》にでもつかつてゐるやうに、ヤグラの上に脚を伸し、掛つてゐる毛布をピラミツド型にして、胸の上で針を動かしてゐた。細君は二の腕までたくしあげたワイシヤツ一枚で立膝でゝもあるらしかつた。そして二人は、隱岐の氣合ひには全く素知らぬ振りで、谷間にはランプがひとつ灯つてゐた、年寄つた母親
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